彼と初めて出会ったのは、私が勤めていた受付のカウンター越しだった。彼は新入社員として入社し、爽やかで優しそうな笑顔を見せていた。まるで少女漫画のヒーローのような彼に、私は自然と心を惹かれていった。
それから間もなく、彼から名刺を渡され、私たちはプライベートでも会うようになった。彼はとても紳士的で、付き合い始めてからもずっと私を大切にしてくれた。
記念日にはハイブランドのアクセサリー、誕生日には高級ホテルのスイートルームでのディナーと宿泊。まさか自分がこんなに大事にされる日が来るなんて、夢のようだった。
彼は「今は副業で株をやっていて、会社を立ち上げるために資金を貯めてる」と語っていた。私は彼の未来に対する真剣さに惹かれ、交際半年でのプロポーズを即答で受け入れた。
そんなある日、彼が予約してくれた高級フレンチレストランで、事件は起きた。
席に着いた直後、笑顔の店員が私に伝票を手渡してきた。不思議に思いながら封筒を開けると、そこにはたった一言──
「この男から逃げろ」
一瞬、頭が真っ白になった。思わず店員の顔を見上げると、彼女は真剣な目で私を見つめていた。間違いではないと確信し、私はすぐに店を出た。
その直後、店の裏口でさっきの女性店員が私を追ってきた。
「突然すみません。驚かせましたよね。でも、あの人には気をつけた方がいいです。私、彼の元婚約者なんです。」
話を聞くうちに、私は震えが止まらなくなった。彼は、婚約をエサに複数の女性から金を巻き上げていた結婚詐欺師だったのだ。投資や会社設立の話はすべて嘘。プレゼントも高級ディナーも、全ては他の女性から巻き上げた金で成り立っていた。
「信じられない……あの優しい彼が、そんな……」
私は頭を抱えた。だが、彼女はスマホを見せてきた。そこには、婚活アプリの画面。彼が今も活発に活動している証拠がはっきりと映し出されていた。
涙があふれそうになったけれど、悔しさがそれを押し戻した。「逃げるだけじゃ足りない。この男に、正義を──」
私は彼との婚約を解消するふりをせず、証拠を集める決意をした。次の週末、彼と再び会い、彼のスマホやPCを確認する機会を伺った。お酒に酔って眠り込んだ彼のスマホを開くと、そこには複数の女性とのやりとり、結婚を匂わせた巧妙なメッセージ、そして振り込みの記録。
私が愛した彼は、架空の仮面だった。
すべての証拠をコピーし、私は警察に届け出た。すでに複数の被害届が出されており、私の証言で彼は逮捕された。
面会に行ったとき、彼はうなだれていた。泣きながら「ごめん」と呟く姿に、一瞬、同情しそうになった。
けれど、私は目を逸らさなかった。
「あなたは他人の人生をもてあそんだ。償ってください。二度と誰かを騙さないで。」
それが私からの、最後の言葉だった。
彼との偽りの婚約を解消し、私はようやく本当の意味で自由になった。今は、過去の傷を癒しながら、真っ直ぐに前を見て歩いている。
引用元:https://www.youtube.com/watch?v=hshHSQ-H_P4,記事の削除・修正依頼などのご相談は、下記のメールアドレスまでお気軽にお問い合わせください。[email protected]